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指間流砂滑過

と同情を集

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と同情を集


 信一は、おばさんの話を聞きながら、退屈しはじめていた。さっきまでの昂揚《こうよう》は、もう、嘘《うそ》のように冷めつつある。
 自分の話をしていた時には、まわりの人たちからHIFU 瘦身注目めて、驚くほど気分がよかった。だが、他人の苦しみは、どんなに深刻なものでも、しょせんは他人事《ひとごと》としか思えない。情報としてなら、もっと悲惨な話は、あらゆるメディアにごろごろしている。
 おばさんが絞り出すような声で語る言葉は、途中から、信一の耳を素通りしていった。彼は、ちらちらと『美登里ちゃん』の方ばかり気にしていた。
『美登里ちゃん』は、真剣におばさんの話に聞き入りながら、しきりに、うなずいたり、怒ったりしている。
 だが、信一は、怒った顔や憂い顔よりは、やはり笑顔の方が可愛《かわい》いと思った。もっと、笑ったところを見たい。笑わないかな。ほら、笑って。……笑えって。
 おばさんが、もっとおもしろい話をすればいいのにと、腹立たしくさえ思う。
 あ。笑った。ようやく『憂鬱な薔薇』おばさんの話は、深刻な箇所を過ぎたようだった。信一は、『美登里ちゃん』が口元を手で隠し補習ながら笑う姿を見て、嬉《うれ》しくなった。やっぱり、どう見ても『天使が丘ハイスクール』の『若杉美登里ちゃん』にそっくりだ。
 信一は、ふと、『美登里ちゃん』が、けっして歯を見せないことに気がついた。そういえば、洗い場で会った時もそうだった。歯並びが悪いのを気にしているのだろうか。
 そんなことを考えているうちに、いつのまにか、『ファントム』君が話す番に変わっていた。
 彼の態度は、のっけから奇妙なものだった。さっきまでは活発にしゃべっていたのに、いざ自分の番となると、急に、うつむいたまま固まってしまったのだ。『憂鬱な薔薇』おばさんがわけを尋ねると、消え入りそうな声で、全員に注視されるのが耐えられないのだと言う。仕方なく、三人はそれぞればらばらな方向を向いて座り、『ファントム』君の話を聞くことにした。車座になった四人が、それぞれそっぽを向き合っているのは、この広間の中でも、かなり奇妙な眺めだったことだろう。
『ファントム』君は、幼い頃に受けた『傷』について語った。彼の実家は、江戸川区でメッキ工場を経営しているということだった。今から二十年ほど前、『ファントム』君がまだ四、五歳の頃に、そこで事故が起こったのだという。
 彼は、事故の詳細については語らなかった。だが、その後遺症によって、自分の顔はこんな風になってしまったのだと。
 信一は、『ファントム』君の言う『傷』というのは、最初は精神的外傷《トラウマ》のことだとばかり思っていたのだが、どうやら物理的な損傷を指しているらしい。しかし、三人は、彼の言葉の意味がよく理解できず、ぽかんとしていた。どう見ても、『ファントム』君の顔には、これといって、おかしなところはなかったからだ。
『憂鬱な薔薇』おばさんがそう指摘すると、彼は、気休めはやめてくださいと言った。こんなにひどい痣《あざ》が残ってしまったんですから、と。彼の指旅遊景點さした部分を仔細《しさい》に見ると、たしかに、頬《ほお》のあたりを境にして、皮膚の色が微妙に変わっているようではあった。だが、言われなければ気がつかない程度のことである。
 信一は、最初のうちこそ少し興味を持って聞いていたものの、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。やはり気になるのは、『美登里ちゃん』のことだった。こっそりと観察していると、蛍光灯に照らされた右手の爪《つめ》のうち、人差し指だけが妙にきらきらと輝いていることに気がつく。最初は、光の当たる角度のせいなのかと思っていたが、そうではないようだ。人差し指の爪にだけマニキュアを塗っているのだろうか。いや、そうじゃない。あれは付け爪のようだ。ますます、興味津々という感じになってくる。
 それに、よく見ると、彼女の手はひどく荒れていた。よほど毎日、水仕事ばかりしているみたいだ。
 信一が、ふと、『ファントム』君の話に注意を戻すと、彼は自分のハンドル ネームの由来について語っていた。何と、『|オペラ座の怪人《フアントム オブ ジ オペラ》』から取ったのだという。あまりにも醜かったために生みの母親にさえ拒絶され、仮面をかぶって、パリのオペラ座の地下でひっそりと生き続けている怪人《フアントム》……。もとはガストン ルルーの小説だが、今ではむしろ、アンドリュウ ロイド ウェバーやケン ヒルのミュージカルで有名である。
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